FC2ブログ
企業の上手なデジタル活用法
「企業の上手なデジタル活用法」  田島照久

時は2020年
証券会社に勤める長谷部には
最近ファンになったアイドルがいる。
アイドルが所属する事務所の戦略なのか、メディアを選び、
CM出演だけでファンを増やし続けている。
その彼女が写真集を出したので早速買って来て、
同僚に自慢げに見せていると
そこを通りがかった同期の国崎が覗き込んで言う。
「ああ、その娘ね、ディードルね」
「え、何、国崎、そのディードルって」
「デジタルだよ、デジタルでつくったアイドルのことだよ、
  ちょっと貸してみ」
国崎は写真集を手にして仔細に見入る。
「しっかし、最近のは本当にわかんないよなあ…」
「何言ってんだよ国崎、デジタルなんかじゃないよ!」
「この子がデジタルだっていうのは
  有名な話だよ、某サイトじゃね」
「国崎さあ、どうして分かんだよ、デジタルだって。
 この髪の毛の生え際とか、よく見ろよ、
 それにこのニキビとかも…」
「長谷部くんね、じゃあ聞くけど、その娘さあ、
 出版記念サイン会とかやったか?」
「うーん…そう言や、アイドルにしちゃめずらしく、
 そんなイベント関係、一切やんなかったんだよな、
 やってくれたら、恥ずかしいけど、
 そこで買ったんだけどな……」
「だろ、実在してたらやるだろ、普通。
 聞いたんだけどさ、最近は、ディードル扱ってる事務所で
 資金力のあるとこなんかは、
 そのサイン会自体もデジタルでつくって
 芸能ニュースとして流すらしいよ。
 俺の友達が、口外しないことを条件に、
 そのエキストラをやらされててさ、
 全身、青い服尽くめの娘と笑顔で
 握手させられるんだって言ってた」
「国崎、俺、ちょっと、分かんなくなってきた……」
「でもさ、いいんだよ、眺めて楽しけりゃ。
 それに、その娘が実在してても
 長谷部が、面と向かって会う機会がなきゃ同じでしょうが」
「同じじゃないよ……」
「ちなみに、最近の有名どころのディードルといったら…」
「うわー、もう、いいよ、言わんでくれー」
「心当たりでもあんの?」
「俺、怖くなってきた!」
「長谷部くん、ひょっとして、知らないで、
 ディードルにファンレター出して、返事が来てたりして…」
「そ、それは無いけど。でも、あったら怖いわな」
「ま、それも、いいんじゃないの。
 子供がサンタさんから手紙もらうようなもんでしょ」
「国崎、それとこれは全然違うぞ!」
「でもなあ、聞くところによると、
 最近のオタク系はディードルじゃないと
 萌えなくなってる傾向にあるらしいよ。
 〈なんてったって、アイドル〉の理想型が
 そこにはあるわけだからな」
「オレも、既にそうなりかかってた分けだから、笑えないな」
「長谷部さあ、デジタルでも自然に愛してしまう、
 オレたちの世代って、この先どうなるんだろうね」
「国崎だって、気になってる、あの本社の早紀ちゃんが
 デジタルの産物だったらどうするよ」
「ありえるかもな、いつもモニター越しにしか
 会ったこと無いもんな」
「そう言えば国崎さあ、この前の大量リストラでは、
 本社の可愛い連中はひとりもリストラされてないって
 問題になってたけどな、それと、あいつら、
 ここ何年も歳取らないって」
「けっこう、オレたち島流しみたいな支社の営業が
 奮起するように仕組まれてたりしてな」
「そうそう、本当は、年季の入ったオバちゃんが
 対応してんだよ、きっと。
 モニーター上では、あの可愛い
 志村早紀子に成り代わってるわけ、
 早紀ちゃんみたいな娘に〈国崎くん、長谷部く~ん、
 きょうの営業、頑張って来てくださーい〉とか言われると
 オレたち、単純だから、はりきっちゃうもんなー」
「そういや、ここの連中、東京出張で、だれひとりとして
 本社の娘に会ったやつは居ないもんな」
「田中なんか、早紀ちゃんと同じ課の吉村可奈子ちゃんと、
 どうにかしてデートしようと、帰り際に
 本社のロビーで待ち伏せしたけど
 ついに、現れなかったって、言ってたな。
 それどころか、可愛い連中に限って
 誰一人としてロビーを通らなかったそうだよ」
「俺の本社出張でも、連中ときたら、
 可奈子ちゃんたちの課の話題になると
 いつも、話しを、はぐらかしちゃうんだよな…」
少しの時間、ふたりの会話が途切れた。
「ディードルかあ、こんな可愛い娘がねえ…」
長谷部はそう言うと、哀しそうに、写真集を
 引き出しの奥にしまった。
国崎は、もはや、そんな長谷部を笑えなくなっていた。
「長谷部、ところで……」
怖くなった国崎は話題を変えようとした、そのとき、
同じ課の後輩の鈴木が遠くから国崎を呼んだ。
「国崎さーん、本社の志村さんから電話でーす」
国崎に緊張が走った。


(c)2008 Teruhisa Tajima all rights reserved.

新作の「ホラーマーケット2」です。

Posted by 田島照久 thesedays
comment:2   trackback:0
[超短編小説
| HOME |