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Posted by 田島照久 thesedays
 
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ホラー・マーケット


絶版になって久しい僕の小説「ホラー・マーケット」が新装改訂版となって発売されることになりました。このブログでも書いていた「左利きのギタリスト」を収録して全30編のストーリーが入ってます。過去に何度もドラマ化が検討された話がいっぱい詰まっています。CG技術が進んだ現在では映像化も可能です。もし映像制作の方がいたら是非読んでみて下さい。短くて、怖くて、二重構造の話しを、これでもかとたくさん書いたつもりです。
四六版、ソフトカバー、232ページ
7月5日までには店頭に並ぶ予定です。
価格:1000円(春日出版)



扉に前回の表紙に使った絵を入れています。



なんと帯には、この本の解説書いている浜田省吾さんと、この本のことを気に入ってもらっている石田ゆり子さんの推薦の言葉がのっています。
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Posted by 田島照久 thesedays
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[超短編小説
忘れ物
「忘れ物」  田島照久

            (horror level ☆)

その現象は、ぼくが30代半ばになったころから始まった。
ぼくはうっかりしている性格というのか、
出掛ける度に、何かしらの忘れ物をしてしまうのだが、
不思議なことに、そんな何処かに忘れたモノたちが、
勝手に玄関に戻ってくるようになっていた。

ぼくの勤める会社は決算期を向かえ、
忙しい毎日が続いていた。
遅くに会社から帰ると、出張先の何処かで
無くしてしまった愛用のマフラーが、
玄関の廊下に落ちているのを見つけた。
それは、大切にしていたイギリス製のもので、
誰かが、知らないうちに届けてくれたのかと思い、
翌日になって、一緒に行った相手や、
泊ったホテルなど、いろいろ心当たりに訊いてみたのだが、
そんなことをした人は居ないということだった。
ちょっと気味が悪かったが、誰かが白状しないだけで、
軽いイタズラだろうと思って、すぐに忘れてしまった。

ところが、それ以降も同じようなことが
頻繁に起きるようになったので、考えてしまった。
それは、ほんとに、どうでもいいようなモノから、
無くして困っていたモノまで、
様々なものが、玄関に届くようになったからだ。
手帳や、万年筆や、シェーバー等だ。
中には、使い古した消しゴムといった、
どうでもいいようなモノもあった。
気に入っていた手袋が届いたときは嬉しかったが、
誰かが、辛抱強くイタズラを続けているとしたら、
相当に根性があるヤツに違いないと思うのだが、
そんな人物はまったく思い当たらなかった。

しかし、そんな現象が始まって半年ぐらい経ったとき、
ついに考えられないモノが届いた。
それは、高校の修学旅行で買ったモノだった。
観光地でわけも無く売っているあの木刀だ。
最初、廊下に長い木片が転がっているのを見た時には、
思わず後ずさりしてしまった。異様な感じだったからだ。
木刀だと分かって、怖々拾い上げて視てみると、
自分で彫った文字があって思い出した。
泊った旅館で、ふざけて「2年4組32番 山本武蔵」
と自分の字で彫ったのだった。
どこがムサシなんだ、と思わず、
若いころの自分に突っ込みたくなった。
ぼくの本当の名前は山本伸一郎という。
しかし、木刀を買ったは良いが、
修学旅行中ずっと持ち歩くのが嫌になると、
途中で停まった何処かの駅のベンチに忘れたふりをした。
電車が出発すると、級友のひとりが、ホームを指差して、
山本、忘れ物だぞ、と教えてくれたが、
ぼくは知らんぷりをしていた。
それは良いとして、もう十七年も前のことになるから、
イタズラだとしたら、時間と手間ひまをかけた
壮大な仕掛けなので、それを
当時の級友たちがやる理由も思い当たらず、
やはり、ちょっと特殊な現象がぼくの家の玄関には
起きているとしか考えられなかった。

木刀が届いてから一ヶ月ほどが過ぎたあたりの日曜日だった。
午後の時間を、本を読んで過ごしていた時に、
またしても、玄関に何かが落ちたような音がしたので、
ぼくは、重い腰を上げ、見に行ってみた。
すると、オモチャの飛行機が転がっていた。
近づいて良く視ると、それは飛行機の形をした電話機だった。
思い出した。確か10年以上も前にフェニックスの
インテリアショップで買ったモノのようだ。
プロペラの部分がダイヤルになっていて、
それを回すと、ちゃんと普通の電話として使えるもので、
受けを狙って買ったものだった。
確か500ドル以上はしたはずだった。
壊れないようにと、フェニックスから
サンフランシスコへ向かう機内に持ち込み、
降りる時に忘れてしまって、それっきりになっていたものだ。
試しに、ケーブルを繋いで117を押してみると、
ピッ、サンジ、ゴジュウ、ゴフン、デス、
と元気な時報が聴こえた。

木刀と電話機の件は、ちょっとびっくりしたが、
それ以降は、たまに、本当に、そのこと事態を忘れた頃に、
忘れ物が、玄関に届くことが続いていた。
勝手に届くので、何を基準にして、そんな昔のモノまでが
届けられるのかは、不思議なことだった。
本当に、どうでも良いようなモノが届き続けていた。
傷んだ傘だったり、読み終えた本だったり、
歯ブラシが一本届いたこともあったが、
それには呆れて笑うしか無かった。
忘れ物というよりは、捨ててもいいものだったからだ。

九月に入ってもまだ暑さが残る日の夜だった。
会社から帰ってビールを飲みながら、
テレビの野球中継を見ていたら、
玄関に、ゴトッ、といつになく重いものが落ちたような音がした。
すると、少しして、何かが歩くような音が近づき、
リビングのドアをカツカツと叩いた。
物取りでも侵入して来たのかと、
ぼくは木刀を持って、恐る恐るドアを開けた。
すると、そこには白い犬が座って尻尾を振っていた。
白い犬の記憶は、ぼくにはひとつしか無いので、
すぐに分かった。小学三年生のときに、
遊びに連れて行ったきり、忘れてしまった
飼い犬のコジロウだった。
コジロウを連れて隣の町まで自転車で遊びに行って。
そこに流れる川の河川敷で夢中になって遊んでいるうちに、
そのまま、放していたコジロウのことを、
すっかり忘れて帰ってしまったのだ。
犬のことだから、そのうちに、
自分で戻って来るだろうと思ったが、
結局、一週間経ってもコジロウは帰って来なかった。
それから、何日も探したのだが、
見つからなくて諦めてしまったのだ。
そのコジロウが、あのときのままの姿で、突然、ぼくの
リビングルームに現れた。首輪も同じだから間違いない。
しかし、初めて、生き物が届けられたことになる。
ぼくは驚くと同時に、感動していた。
しかも、別れてしまったときのままだから、
コジロウの歳は四歳のままのようだ。
首輪をよく調べると、マジックで文字が書いてあった。
ラッシー、川出町四丁目三番地七号、とあった。
あの後、誰かに飼われていたようだ、ありがたいことだ。
しかし、今も、ずっと生きているとしたら、
年齢的に考えて、それは無理なことだった。
コジロウは、どこから来たのだろうと思いながらも、
ラッシーという新しい名前は、
どう考えても日本犬のコジロウには不似合いで、
もう、笑うしか無かった。

そんな、いろんな忘れ物が届くようになって
一年が過ぎ、秋も深まった十月の土曜日の午後だった。
玄関に、ドスン、と尋常ではない大きさの音が響いた。
何事かと、見に行ってみると。
十代の女の子が驚いた顔をしてへたり込んでいた。
目には涙を溜めている。
ついに、ついに、来るところまで来てしまった。
人間までもが届くようになったことには、
さすがの、ぼくも驚きを超えて呆れていた。
それにしても、見覚えのある顔だ、と少し考えて、
三浦早紀だと分かるまで、そう時間は掛からなかった。
その三浦早紀嬢とは、ぼくが16の時に知り合った娘だ。
隣町の有名私立女子高の生徒だった。
真剣に付き合って欲しいと言われたが、
ぼくは、そのころ、クラブ活動やバンドの練習が忙しく、
片思いだけど、好きな娘は他に居たこともあって、
適当にあしらっていた娘だった。
良い娘だったけど、興味は持てないタイプだった。
思い出した!
どうしても、一回、デートして欲しいと言われて、
ぼくのバンド仲間のケンジと一緒に、
二十キロほど離れた街の夏祭りに行ったのだった。
その時、ぼくは、ケンジには格好つけて、
アイツ面倒くさいんだよなあ、などと悪態をついていたら、
だったら、ほったらかして帰ろうぜ、とケンジが言った一言で、
ぼくは退けなくなり、三浦早紀を撒いて帰ったのだった。
悪いことしたと思っている。
そう言えば、あれから、三浦早紀には、
いちども会ったことは無かった。
あのときは、相当怒らせてしまったに違いない。
しかし、これも忘れ物ということなのだろうか。
「オジさん誰?」
「ぼくは、山本伸一郎だよ、早紀ちゃん、憶えてないの」
「伸一郎君のお父さん?」
「いや、伸一郎そのものだよ」
「まさか、いい歳のオジさんじゃない」
確かにそうだ、あれから二十年は経っている。
「とにかく、ぼくは伸一郎なんだ」
「証拠は?」
「早紀ちゃんから、もらった手紙は全部で七通、その出だしは、
 いつも〈私のギター王子・伸一郎くんへ〉だった」
「あっ、恥ずかしいけど、当たってる、
  だけど、どうして歳とってるの」
「それを話せば長くなる…
  早紀ちゃんこそ、どうしてここに来たの」
「伸一郎くんたちが黙って帰ったのが分かったので、
 悲しくなって、熊野神社の参道の真ん中で
 思いっきり泣いてたら、突然この家の玄関に居たの」
「じゃあ、さっきまで、ぼくたちと熊野神社に居たわけ」
「あたりまえじゃない、一緒だったじゃない」
三浦早紀は怒ったように言った。
「いや、ちょっとした手違いがあってね…実は…」
とぼくが、わけの分からない言い訳を考えていると、
突然、三浦早紀が大声で叫んだ
「あっ、いけない、わたし、忘れ物してきちゃった!」
「な、何を?」
「さっきの神社に友だちの芳子ちゃん、忘れた!」
そういえば、あれはダブルデートだった、
バンド仲間のケンジが退屈しないようにと、
三浦早紀は友だちをひとり、確か金沢芳子という、
聡明そうな娘を連れて、やって来たのだった。
ケンジは、その娘のことを気に入らないようだった。
そんなことを思い出している時に、 
またドスン、と玄関に音がした。
嫌な予感がした。
三浦早紀が玄関を覗いて言った。
「芳子ちゃん!」

自分の忘れ物だけなら、なんとかやり過ごせていたが、
この後の展開は、あまり考えたくはなかった。
夕方になって、三浦早紀が小さい時に
何処かに忘れたらしい三輪車が届いた。
彼女は、早速乗ってみて、もう漕げない、
と言ってはしゃいでいた。
そうこうしているうちに
今度は、金沢芳子が幼稚園のときに飼っていた
文鳥のピーちゃん、とかいう小鳥が
玄関で舞っているのを見つけた。
お婆さんの家に持って行って忘れ、
それっきりになっていたらしい。
ピーちゃんは、さっそく金沢芳子の人差し指に
留まると、毛繕いを始めている。

忘れ物が届く間隔が、だんだん短くなっている。
ぼくと、三浦早紀と、金沢芳子に関する忘れ物は、
この先、何処まで増大して行くのだろうか…。
ドシッ!
玄関では、また何かが落ちる音がしていた。


©2009 Teruhisa Tajima all rights reserved.
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[超短編小説
同じ時間に同じバスで
「同じ時間に同じバスで」  田島照久

            (horror level ☆☆)


今日も、あのエキゾチックな顔立ちの彼女が乗ってきた。
ぼくが乗るバスには、毎回決まって、あの彼女が乗ってくる。
いくら時間を変えて乗ってみても、
毎回、同じことが起き続けている。
それはまるで、女性のストーカーのようだが、それにしても、
彼女は個性的で魅力的な女性で、
ぼくなんかをストーキングする根拠は見当たらない。

ぼくは40代の後半にさしかかっている独りものだ。
すでに両親は他界していて居ないが、
叔父や叔母も居なかったので、従兄弟もひとりも居なく、
親戚という言葉はぼくには無縁だった。
そろそろ、生涯独りの身を覚悟する時期が近いのが分かる。
どこにも属せず、フリーランスの仕事をしているので、
見た目も、収入も、何もかもが普通で、個性的な女性に
見初められる根拠など微塵も思い当たらない。
取り柄と言えば、真面目な仕事ぶりくらいなものだろう。

仕事で出掛けるときは早朝のこともあれば、
昼間のこともあり、夕方になることだってある。
アパートの前がバス停なので、
どんなに荷物が多くても、必ずバスを使うことにしている。
そんなぼくに不可解なことが起き始めた。
いつの頃からか、その件の彼女が、同じバスに乗ってきて、
しかも、僕の前の席に座ることが続くようになったのだ。
どう考えても、僕が乗る時間を見計らって、
乗ってきているとしか思えない。
必ず、ぼくが使うバス停の次のバス停から乗ってくる。
きちっとしたスーツに身を包み、席につくと、
いつも英語で書かれた何かの専門書を読んでいる。
ページをめくる度に光る銀のブレスレットが、
アブストラクトに歪んでいて、彼女の個性を物語っている。
降りるバス停は決まっていて、
「次は錦町三丁目です、御降りになる方は…」
というアナウンスが流れると、
本を閉じて、真っ先にボタンを押し、降車の意思表示をする。
その時の少しソワソワした様子が、
 ぼくはいつも気になっていた。
今日こそ、意を決して、この不可解な
乗り合わせの理由を確かめるべく、
彼女が降りた後をつけてみることにした。

〈錦町三丁目〉で降りた彼女は、
足取りも軽やかに商店街を抜け、
そのまま、住宅街に入り、脇目も振らずに歩き続けて行く。
しばらく続いた住宅街を抜けると、小高い丘が現れた。
階段にして20段くらいの高さを、彼女の後を追って登ると、
丘の上は小さな墓地になっていた。
ひっそりとした墓地だ。寺のような建物も無かった。
やがて、彼女は、ある小さな墓の前に進み、
覗き込んで何かを確かめると、
ほどなくして、どこかへ行ってしまった。
彼女が居なくなったのをみて、僕はその墓へ歩み寄った。
〈篠崎家〉と記された小さな墓だった、自分と同じ名字だ。
偶然なのだろうか。腑に落ちなくて、
 しばらく佇んでしまった。

「ドナタ、アナタハ、イッタイ誰ナノ?」
背後の声に振り返ると、彼女が花を携えて立っていた。
まじかに見る彼女は、個性溢れる存在感でぼくを圧倒した。
哀しみをたたえた眼差しがまぶしく映る。
ぼくは一瞬、自分を失いそうになった。
しかし、ひるんではいられない、聞きたいことは、
ぼくの方にこそあるのだ。
「それより、あなたの方こそ、どうして、
   ぼくと同じバスに乗って来るのですか」
彼女は何と応えてよいのやら迷っているらしく、
 困りきった顔をしていたが、
やがて、意を決したように、その口を開いた。
「実ハ、私モ、アナタノ事ガ、ズット気ニナッテイルノデス。
私ガ乗ルト、イツモ、決マッテ、アナタガ乗ッテラシテ。
タダ、〈ストーカー〉ニシテハ、私ガ乗ル前カラ
乗ッテラッシャルカラ変ダシ、
デモ、何トカシナクテハト、ズット悩ンデイタノデス」

同じ時間、同じバス、同じ名前の墓、同じ疑問…

…ふたりは、お互いに、
ずっと前に起きた、ある事故を思い出していた。
居眠り運転のタンクローリーに激突され、
バスが一瞬にして全焼した事故だった。
逃げ遅れた多くの犠牲者のなかに、
身元引受人がいない男性がひとりと、
国籍不明の女性がひとり残された。
篠崎の姓を持つ僕の手にしがみついていた女性の
高熱で溶けかかった
銀のブレスレットからは、かろうじて
SHINOZAKIの文字が読みとれていた。
警察の計らいで、ふたりは国を超えた未入籍の夫婦として、
ひっそりと都会の片隅に葬られた。
名前が一緒なのは、ただの偶然だった。

ぼくは、名前を篠崎辰郎といった。
いままで勝手気ままな人生を送り、
いろんな職に就きながら、
全国を転々としていたが、
この街に落ちついてからは二年が経っていた。
いちばん長い滞在とも言えたが、
先のことは何も分からないでいた。

彼女はSOFIA SHINOZAKIといった。
日本人の父とドイツ人の母との間に生まれ、
父親の仕事の関係で、ヨーロッパ各地を点々として、
育てられた。二十六歳になると、オーストリアで
知り合った外科医と一緒になったが上手く行かず、
三年で別離れ、そのあと、アフリカ系
フランス人の外交官と、八年一緒に暮らしたが、
それも上手く行かなかった。そんな二度の離婚の果てに、
それまでの生活を変えようと、
父親が生まれたこの国にやって来て、
仕事を探し始めたところだった。
母親は早くに亡くなり、父親も半年前に亡くなっていたので、
彼女も、今はひとりになっていた。

ぼくは、もしも、あの時、あのバスにさえ、乗らなかったらと、
繰り返し、くりかえし、乗るバスを代えてみていた。
彼女は彼女で、バスを代えると墓の名前が消えると信じて、
来る日も来る日も、違うバスに乗っていた。
ふたりは自分の運命を受け入れられずにいるうちに、
毎日繰り返していることの意味すら分からなくなっていた。

ぼくは言った
「炎のなかで、あなたが手を延ばしてきたのを覚えているよ」
彼女は言った
「見ズ知ラズノ私ニナンカ、構ワズニ
  逃ゲテタラ、助カッタカモ知レナイノニ」
ぼくは言った「気が動転していたんだ…きっと」
彼女は、やっと少し微笑んで言った
「優シイ方ナノデスネ、アナタハ」

ふたりは、お互いの話を聞くうちに、
いまの状況を受け入れる準備が出来はじめていた。
街を見下ろすと、遠くに
〈錦町三丁目〉を出たバスが走り去るのが見えた。
ぼくは言った。
「しかし、この墓碑銘の〈篠崎家〉には困りましたね、
墓は二つに分けないといけませんね」
「二人ガ一緒ニ入ッテイルママダト、
  何ダカ表札ミタイデスネ」
と言って彼女は笑った。
墓地を改めて観察してみると碑が在って、
この場所の謂れが書いてあった。
どうやら、その昔、往き倒れになった旅人を
埋葬していたところらしい。
ぼくたちは、〈往き倒れになった旅人〉というところは、
お互いに当てはまるかもしれないですねと、笑い合った。

街の片隅の、見晴しのいい丘にある墓地で、
日本人の地味な男と、
エキゾチックで個性溢れるヨーロッパ育ちの女が
楽しそうに、話し込んでいる光景は珍しかったが、
その姿は誰にも見えなかった。


©2009 Teruhisa Tajima all rights reserved.

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[超短編小説
ボクは宇宙飛行士
「ボクは宇宙飛行士」 田島照久

            (horror level ☆)

ボクは宇宙飛行士。
人類初の月に降りったったあの宇宙飛行士だ。
正確には、あの時は、あの宇宙飛行士だった。
ぼくと一緒に働いたのは複数居たけどね、
間違わないでほしいけど、
あのNASAの宇宙飛行士じゃないよ。
ボクは雇われたからやったまでだ。
もう50年も昔のことだけどね。

近頃になって、やっと君たちは
そのことに気付いて、騒ぎだしたから
ほんとのこと話した方がいいかなと思ってるんだ。

いいかい、あのころの宇宙開発の技術では
人類が月に行くなんて無理だったんだ。
考えてもみてごらん、君がその宇宙飛行士だとして、
一度もテストもしないで、
いきなり月に降りるんだよ。
針の先ほどの宇宙服の穴でも即死するところだよ。
数秒でも浴びたら死んでしまう放射線が降り注ぐところだよ。
昼間の温度が80度で、日陰の、夜じゃないよ、
日陰の温度がマイナス120度になるところだよ。
そんなところに送り込まれるんだよ。
行けって言われて、行くかい?
ヒーローになれるからって、行ってみるかい?

じゃあ、おまえは誰だって?
良い質問だね。
ボクはね、実は、地球人じゃないんだ。
説明が難しいから、今は
地球人じゃないことだけは教えておくよ。

だれから頼まれたって?
それも、言えないけど、想像はつくでしょ。
エリアなんとかに捕われてしまった
僕たちの仲間を返してもらうことを交換条件で
この仕事を引き受けたんだ。

実は、あの計画の行程の半分は本物なんだ。
つまり、本当の人間の宇宙飛行士たちは、ちゃんと
サターンロケットで打ち上げられて月へ向かったんだよ。
そこまでは、当時の宇宙開発の技術で出来たんだ。

その手はずはこうなんだ。
計画の前半部分は当時の地球の技術で賄えたので
地球の人間がやったんだ。そして
後半を我々がやるということにしたんだ。
良いアイデアでしょ。

だからね、月で写っている宇宙飛行士は、
みんな、実は僕たちなんだ。
もちろん、交換条件のひとつ、
月の鮮明な写真も撮ってあげたから、
数々の写真は、みんな本物だよ。
みんな写真が偽物くさいって言ってるけど、
あれは、ハッセルブラッドという
スエーデン製のカメラで撮ったものだよ。
とにかく、写真は本物。
僕に渡されたのは、特別に開発されたもので、
月じゃフィルムの交換なんて難しいから、
っていうんで、当時、映画で使われてた
70mmのロールフィルムをひとつの
マガジンに入れてあって、200カットを
一度に撮れるようにしてあったんだ。
もう、全部撮りきったね。楽しかったよ。
バシャバシャとパノラマで撮ったりしてね。

何度も言うけど、写真だけは本物なんだ。
デジタルで画像処理が出来ない時代に
あんな鮮明な写真をねつ造するのは無理だね、
とんでもない労力が必要だよ。
東京ドームの10倍くらいの巨大なスタジオをつくって、
そこに月の土壌を再現して、
太陽と同じ平行光線をライティングでつくって、
その広大な面積全部に、
平均的に光を当てる必要があるから、
そんな光源なんて、どうやってもつくれないよ。
それから、ねつ造計画に携わった数千人規模の
口封じをしなくてはいけない労力も大変だよ。

とにかく、月で写っている宇宙飛行士は、
全部、僕たちなんだ、証明は出来ないけどね。

でも、気付いたかな、ヘルメットの
バイザーを上げて撮られた、僕たちの写真が
一枚もないことに…。


©2009 Teruhisa Tajima all rights reserved.
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[超短編小説
予期せぬ怒り
「予期せぬ怒り」 田島照久

            (horror level ☆)

昭和の三十年代の話だ。

ぼくは、大分の山間にある
火ノ出中学校の三年生で、植村彰雄という。
取り柄と言えば絵が上手いことなのだが、その他に
亡くなる人が分かってしまうという、
あまり有り難くない能力も持っている。

ぼくの中学校では、恒例の、
秋の体育祭が近づきつつあった。
その日、ぼくは、担任の京塚先生に
届けるものがあって、職員室に入って行った。
すると職員室の奥には、西陽を背景にして立つ、
シルエット状の三つの影が見えた。
先生とふたりの男子生徒のようだった。
何事か深刻な話をしている様子がうかがえる。
職員室を見渡すと、その他には先生方が
三、四人残っているだけで、静かなものだった。
その中に京塚先生の姿は無く、
既に帰宅されているようだったので、
ぼくは先生の机を探し出して
その上に届け物を置いた、と同時に
パシーン、という音が職員室に響き渡った。
ちょっと、いやな音だったので、何事かと思っていると、
またも、バッシーン、と、もっと強い音が響いた。
音がする方の三つのシルエットに目を凝らすと、
先生の方は、体育教師の岡崎先生だということが分かった。
ぼくは、生徒の方を確認したいと思い、
少し近づいてみると、それは、
普段から素行が悪いと評判の菅沼と丹野だった。
何をしでかしたのかは知らないが、そのふたりが、
定年を来年に控えた岡崎先生から、
強烈なビンタを浴びせられていた。
ぼくは、それを見ていて、その岡崎先生の
最期が近いことが分かってしまった。
ぼくにしか分からない、最期のヴィジョンが観えたのだ。
だが、このことを説明するのは難しい。
今ここに存在している者が、
遠くに行ってしまうようなイメージが湧くだけなのだ。
こういう時は、誰にも言えずに、
本当に辛い気分になってしまう。

しかし、普段は温厚で女生徒にも人気の岡崎先生が、
こんなに激高している姿を見るのは初めてのことだった。
岡崎先生は体育が専門だが、
先生のお父さんが画家だったこともあり、
何かと僕の絵の才能を買ってくれていた。
ついこの前も、岡崎先生が指揮を執ることでは最後になる、
秋の体育祭のポスターを描いて欲しいと頼まれ、
ぼくは、巨大なポスターを三枚も描いたのだった。
西野辺地区と、東野辺地区と、商店街用に分けて描いて、
大喜びしてもらっていた。
しかし、今の執拗なビンタを見る限りでは、
岡崎先生は、明らかにやり過ぎている気もする。
何も、そこまでやらなくてもと、
普段は大嫌いなふたりに同情するほどだった。
際限なく続くビンタを見かねた他の先生方が止めに入って、
やっと、それは終わったが、誰かが止めなければ、
ふたりが大怪我をしそうな勢いだった。

ぼくは、見ていて、哀しくて仕方がなかった。
どうして、もうすぐ亡くなってしまう岡崎先生が、
人生最後の日になって、見ていられないような、
不本意な行為に走ってしまわなければ成らなかったのか。
よく考えると、そんなことを岡崎先生にやらせてしまった
菅沼と丹野が憎々しくなった。
顔が膨らんだふたりが、僕の横を抜けて行く時に、
…チクショー、岡崎のジジイめ、死ねばいい、
  今に見てろ… と囁く声が聞こえた。
ぼくは思わず彼等の後に従い、職員室を出ると、
「おい、菅沼、丹野、待てよ、
 岡崎先生はもうすぐ死ぬんだぞ、
 自分にはそれが分かるんだ、
 思い通りになるな、良かったな、嬉しいだろ、
 さんざん喜んでろ」
つい、そう言い放ってしまった。
振り返った菅沼が近づいて来て、僕の胸ぐらを掴み、
「いい加減なこと言うな、植村。あのクソ元気な
 岡崎のジジイが死ぬわけなかろうが」と迫るのを、
丹野が間に割って入り、菅沼と僕をむりやり離した。
殴られたら殴り返す覚悟でいたが、間近で見る
菅沼と丹野の顔は膨れ上がっていて、
紫色のアザが痛々しく、
そんな気力は喪失しているのが分かった。

次の日なって、学校に行くと、
前の日まで元気だった岡崎先生が、
突然亡くなったことで学校中が騒がしくなっていた。
女生徒の多くが泣いていた。
いつもは、死因はどうであれ、
ひとの寿命だけは仕方がないのだと、
言い訊かせていたが、今回は少し違った。
死因は心筋梗塞なのだが、噂によると、
昨日の興奮した岡崎先生の行動が、
もともと良くなかった心臓に負担をかけ、
そのことが原因ではないかということらしい。
緊急の職員会議が開かれ、
今年の体育祭開催の有無も検討されているようだった。
教室に向かうと、廊下の向こうで、
丹野が恐ろしいものでも観るように、
こちらを見ていた。顔に絆創膏を二、三枚貼っているようだ。
背後から肩を叩く者がいて、振り向くと、それは菅沼だった。
菅沼は何も言わずに、じっと僕を見つめている。
菅沼の顔も腫れが酷くて痛々しい。
おおよそ、訊きたいことは分かるが、
応えることも無いので、黙っていたら。
「言うてみいや、偶然やったんやろ、
 人が死ぬのが分かるわけが無かろうもん」
と言って迫ったが、得体の知れない者を前にし、
怯えている様子が分かった。
あの乱暴者で巨漢の菅沼が小さく見えた。
本当は小心者なのかもしれない。
ぼくは、今度はお前が死ぬんだぞ、
とウソの予言を告げたい気分だったが、我慢した。
そこに、始業のベルが鳴り響き、
ぼくは菅沼を無視して教室に入った。

担任の京塚先生が入って来て、
岡崎先生の残念な逝去を告げると、
みんなで黙祷した。
顔を上げると、京塚先生は
何やらグシャグシャになった紙を取り出して、
今日は、もうひとつ残念なことがある、
これを見てみろ、と言って掲げたものがあった。
教室中が騒然となった。
それは、一週間前に、僕が描いた
ポスターのうちの一枚だった。
それが、真ん中から無惨にも
四方に向かって引き裂かれていた。
最大の紙を二枚貼り合わせて描いた、
三枚の中ではいちばんの力作で、
あまりの大きさに、クラスの有志が何人か
手伝ってくれて完成したものだった。
岡崎先生と相談の結果、
西野辺がいちばん住民が多いからということで、
そこに貼ってもらおう、ということになった一枚だった。
それが、西野辺の溝に捨てられていたのを、
おととい、偶然、岡崎先生のクラスの
生徒が見つけたらしかった。
西野辺に貼ることを任されていたのは、
あの辺りに住む、菅沼と丹野のふたりだった。
ぼくは拳を握りしめると、廊下へ出て、
ふたりがいる教室へと向かった。
うしろから、京塚先生の
「植村、待て、気持ちは分かるが、今は行くな」
という声が聞こえたが、
もはや、ぼくは聞く耳を持たなかった。
ぼくは、いまや、岡崎先生以上に
激高していた。


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[超短編小説
ストリート・パフォーマンス
ずっと前のことですが、小学館の編集の方から、連絡があり、装丁の仕事かと思ったら。田島さんは文章も書かれますよね、今回は小説を書いて下さいと言われ、書いたものです。久々に読んでみて、少し加筆しました。ブログに載せるには、ちょっと長いですが、よかったら、時間がある時にでも…

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「ストリート・パフォーマンス」  田島照久

            (horror level ☆☆)

  一年に数回だが、見た目は同じにしか見えない二人組が、一列に並んで、2、3メートルの距離を保ち、全く同じ仕草で歩いている姿を見かける。小さいときから見かけているそれは、二人の人間が演じるパントマイムで、大道芸のようなものだと思っていた。例えば、前のひとりが右手で頭を掻くと、うしろの方も全く同じ動きをするからだ。たいがいは、大人のペアなのだが、稀にそれは子供の二人組のときもあった。その間隔も、1メートルくらいのもあれば、5メートル以上離れている場合もあったりで、距離が近づいている二人組になると、その外見は、違いがわからないくらい似ているのが特徴的だった。

 この夏、久しぶりに、渋谷の雑踏のなかで、そのパフォーマンスを見かけた。ヒップホップファッションの若い男が二人、2メートルくらいの距離を保って、肩を左右に揺らしながら歩いていた。僕は、彼等の背後に回り込むと、その二人組をじっくりと観察してみようと思った。
例によって、後ろの男は前を歩いている男の動きを懸命にトレースしている。時にそれはダンスのパフォーマンスを思わせるから、実に面白い。この二人組は、前の男が忙しく動くので、見ていて飽きる事がない。しかし、よく観察してみると前を担当している男に比べて、うしろのそいつの服は何だか変な素材で出来ていて、急ごしらえのようにみえた。髪型も無理して合わせているようで、サマになっていないと言うか、どこかがちょっと変なのだ。大道芸とは違う種類のものを感じてしまった。そういえば、道行くひとたちは誰ひとりとして、この面白い二人組に関心を示さないのも気になることだった。
 しばらく一緒に歩いてみて、ぼくは思い切って、うしろの方の男に話しかけることにした。
「ねえ、ねえ、君たち、いつ頃から、こんなパフォーマンスをやってるの、面白いね、いろいろ教えてよ?」
と訊いてみると、そいつは、ぎょっとした様子で、歩きながら、僕を上から下まで、なめるように見回し、迷惑そうな顔をして、
「なんだよ、いきなり、いいから、ほっといてくれ、おまえは未だ仲間じゃないし…」
と言い残し、前の男との距離を崩さずに行ってしまった。途中で何度か僕の方を振り向いたが、その男が歩みを止めることはなかった。

 それから二か月くらい経ったころ、人がまばらな、夕暮れの銀座の交差点で、また例のパフォーマンスに出くわした。それは二十歳くらいの女の子の二人組だった。僕は今度こそ真相をと、渋谷のときと同じ質問を1メートルくらい離れて立っている、うしろの方の女の子にしてみた。
「ねえ、ねえ、ちょっと失礼。訊いても良いかな? 君たち、一体いつ頃から、こんなパフォーマンスやってんの?」
その子は僕を見ると同時に、咳き込んでしまった。そうとう驚いている様子だ。
「えっ…ちょっと待って、どういうことなの? いま、見えてるわけ、この私が?…あなた、ほんとに見えてんの?」
僕は、慌てずにそれに応えた。
「見えてるって?君と、こうして話してるのに?」
その子はもどかし気に続けた。
「悪いけどね、いまは、ちょっと忙しいのよ、この子の最期が近いから。…にしても、びっくりしたわね、この私が見えてるなんて…」
実はこのとき、僕は彼女のこの答えを、それほど驚かないで聞いていた。心の奥底では、そんな答えを期待していたのかも知れなかった。僕は冷静に考えて提案してみた。
「よかったら、少しだけ、話がしたいんだけど、君と、このパフォーマンスのことで。ナンパなんかじゃないよ」
「そうね、この際、話をした方がよさそうだわね、この仕事はあと1時間ほどで終わるから、その後… ここだったら、有楽町か日比谷あたり… そうね、日比谷公園の噴水の前で待っててくれたら…あとで向かうわ」
そう言った後、信号が変わると同時に、その女の子は慌てて前の子と歩調を合わせ、行ってしまった。交差点を渡りきるあたりで、ふたりの距離はさらに縮まったように見えた。

 僕は、日比谷公園のベンチに座り、照明に照らされた水の動きを、所在な気に見つめていた。すると、さきほどの彼女が、時間通りに現れ、挨拶もそこそこに話を始めた。遠くでは、救急車のサイレンが鳴っている。
「私たちはね、この人間にしようと決めたら、まず50メートルくらい離れたあたりから始めるの、その段階では、だれでも私たちを肉眼で見ることができるの。そして、その人間の行動パターンに合わせながら、少しずつ近づいていくのよ、すると、だんだん私たちは人間の目からは見えにくくなるの、同時にコンピュータ画像のモーフィングに近いことが起きる始めるの、身体的な特徴はもちろん、着ている服や、歩き方など、何でも、一体になり始めるわけ、だから途中の5メートルくらい離れているときが、いちばん変な状態なのよ、自分と相手の中間あたりがね。そのあとは一心同体となって最期のときに備えるわけ…。忘れちゃいけないのは、同性で歳が近くないと、ターゲットとして選べない決まりになっていることね。そうそう、もうひとつ、こんな私たちのことを人間は〈シニガミ〉って呼んでるわ」
ぼくが想像していた死神とは全く違う。どう見ても普通の女の子だ。話しているうちに、さっきとは顔の感じが違っているように思った。ずっときれいになった感じがする。そんな僕の心を読むようにその子が答える。
「戻り始めたわね、あと30分くらいで元の顔になるわよ」
僕は聞いてみた。
「質問だけど、いつからその〈シニガミ〉になったの?それと、もうひとつ、僕の未来も、君には当然見えてる訳?」
「それより、あなたはいつから、私たちに気づいていたの?」
僕は答えた。
「幼稚園の頃からかな、今日までは、ずっと、誰にでも見えてるストリート・パフォーマンスだと思ってたよ」
「そうなんだ。さっきの質問には答えられない代わりに、自分たちの存在理由のひとつを言わせてもらうとね、必ずしも、ターゲットを制裁するために私たちがいるわけでもないのよ、その人の死によって多くの人が助かる時などは、むしろ、私たちが一番やりがいを感じるときなの…。さっきの子は、もう終わっちゃったけど、自己消滅の願望が強くて、ずっと苦しんでて、それを楽にしてあげたってこと…もっと説明すると、あの子はまわりへの影響力が強過ぎて、この先、多くの人を不幸に追いやることが観えてしまったの、だから、仕方なく…」
少し寂しそうに、その〈シニガミ〉の女の子は、先ほどの女の子とのいきさつを説明した。噴水の照明が少し暗くなり、時間が思ったより速く過ぎているように感じた。
「君たちが見えてしまうぼくは〈自分のシニガミ〉の出現を見てしまうかもしれないんだ…」
僕の不安げな言葉を察して彼女が答える。
「大丈夫よ、後ろにしか現れないし、振り返っても見つからないように、消える仕組みだから〈他人のシニガミ〉は見ることが出来ても、自分のは見られないはずよ。それにしても〈シニガミ〉っていやな言葉ね、まあ〈神〉って言葉が入っているのは素敵だけどね…」
話の途中で突然、ピッピッーっとその子のポケベルが鳴った。
「いけない、いけない、時間が経っちゃった」
ポケベルのサービスなんて、この世界ではとっくに終わっている、彼等の世界は別の時間軸で動いているのだろうか…。すっかり、きれいな顔に戻ったその美人の〈シニガミ〉は、どうやら、かなり忙しいらしく、
「私、行かなきゃ、じゃあ、多分、また会えると思うし…」
と最後は魅力的な笑顔を見せてくれた。そして、そそくさと地下鉄の駅に消えて行ってしまった。

 そんなことがあって、しばらく経って秋も深まったころ、朝の通勤の電車の中で、気になることが起きた。自分に似た人物の登場だ。電車がガード下の暗がりに入ったとき、つり革に掴まり、ぼーっと見ていた前の窓ガラスに、なんとなくそれが映った気がした。一瞬のことだったが、自分に雰囲気が似ている男がひとり、同じ車内の数メートル後方に立っているのが見えたような気がしたのだ。

 さらに一週間後の終電近くの混んだ車内で、今度はそれが現実味を帯びて来た。電車がターミナル駅を出発すると、暗闇に包まれ、明るい車内が窓ガラスに映り込んだ時、僕の背後にはっきりと、僕に似ている男を確認したのだ。つり革に掴まっている僕に合わせているらしく、その男も右手を挙げているのだが、空を掴んでいる。にもかかわらず、微動だにしないで立っているのが不自然だった。試しに素早く振り向いてみたが、その似ている男の姿は何処にもなかった。やはり、おかしい。
 そんなことに気をとられて、気づかなかったが、よく見ると僕の隣の男の背後にも、似た男が立っている、その隣のとなりにも、同じように二人組になって、整然と並んで立っているのが見えた。焦り始めていたが落ちついて、もう一度ゆっくり車内を見渡すと、携帯に夢中になっている若いOLの二人組や、新聞を読み耽る老紳士の二人組も見えた。もはや考えられることはひとつしかなかった。この電車に乗り合わせた多くの人に、同時に最期が訪れようとしているのだ。なんとかこの状況から逃れようと考えたが、この電車は特急だった。次の停車駅までは、かなりの距離を乗り続けなくてはならない。僕の額に汗がにじんだ。
 やがて電車は長い直線に入ると最高速に達し、この路線で唯一の川に差し掛かろうとした時だった。気味が悪いほどのブレーキの軋む音が響いて、僕の身体が宙に浮いた。蛍光灯が消えると、火花が散って、車内が二度、三度と赤く輝いた。電車が右に逸れ、下降して行くのがわかった。大きい衝撃がくると一瞬にして白い煙で被われた。冷たかった。どうやら、水しぶきのようだった。電車は鉄橋の手前で何かとぶつかり、川に向かって落ちて行ったようだった。衝撃が収まって非常灯が灯ると、先ほどの乗客が半数近くに減ってしまっているのが分かった。それは、すでに多くの乗客が〈シニガミたち〉と同化してしまっていることを告げていた…。
 あちこちから、うめき声がしていたが、5分も経つと静寂が訪れた。遠くで遮断機の警告音と何かのサイレンが鳴り続けている。痛みは全く感じないが、僕にはまだ意識があった。助かったのだろうか。そんなことはありえない、僕にだって〈僕のシニガミ〉が見えていたのだ。それにしても、自分には〈シニガミ〉に憑かれる原因が思い当たらなかった。まだまだこの社会で活躍できるはずの人間だと思うのだが…。と考えていると、背後に、というより背骨のあたりに誰かがへばりついている感じがした。そこで、ありったけの力をふりしぼって聞いてみることにした。
「おい、君…うしろにいる君。きみは、ぼ、ぼくの…〈シニガミ〉なのか?だったら返事をしてくれ?」
背後にいる男が答えた。
「お察しの通り、君の〈シニガミ〉だ、君のことは良く知っている。我々の仲間では有名だったからな。謀らずも歳が近くて、この俺が担当になっちまったが、恨まんでくれ、仕方がないことだ」
僕は勇気を出して、いちばん知りたくないことを聞くしかなかった。
「僕は…ぼくは…死んでしまうのか」
〈背後のシニガミ〉は、あっさりと答えた。
「君はもう、既に半分は死んでるよ、この俺が痛みをカットしてやっているから、幸せな最期を迎えられるんだけどな」
もう、愕然とするしかなかった。
「僕の未来には…一体、何が起きる予定だったんだ、何がいけなかったのか… 最期に教えて欲しい」
やっとの思いでそう言うと。
「君がいけなかったことなんて何もないよ…我々にはちょうど、特に君くらいの歳の男が不足してきててね…でも悲観する事はないさ、これからが君の本当の人生の始まりかも知れないからね。分かるだろう、君にはその才能があるんだ。自然のなりゆきさ、ウエルカム・トウ・ジ・アワ・ワールド!ということだよ」
と、やたらと愛想がいい〈ぼく担当のシニガミ〉は僕の中で笑った。

 人混みを歩く僕の身体を、たくさんの人がすり抜けて行く。酔っぱらい運転のコンクリートミキサー車と通勤特急の事故から二か月が経っていた。
 ぼくはやっと、気持ちの整理も済んで、きょうは、晴れて、この池袋でのパフォーマンス・デビューに挑んでいる。今では〈シニガミ〉としての毎日を少し楽しめるようになっていた。それに恋人だっている、もちろん日比谷公園で話したあの子だ。
 前を歩く、僕とそっくりの人物との距離は、余すところ50センチまでに迫っていた。前方を見上げると、冬の陽光を浴びた建設中のビルの巨大なクレーンが突然の強風でバランスを失い、大きく傾くのが見えた。僕は仕事を成し遂げる充実感に満たされていた。

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「ホラーマーケット2」より
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[超短編小説
都合のいい夢
「都合のいい夢」  田島照久

            (horror level ☆)

夢を見た、面白い夢だった。
俺は自分が最も忌み嫌う姿に成り果てていた。
なのに、それを愉しんでいたのだ。
そして突然、視点が変わった。
すると、別の違う自分になっていた。
その二人目の自分は神聖な姿にでもなっているのか、
最初の自分の姿を見下ろしながら
「おまえはどうして、そんな姿を愉しめるのだ。」
と心底、落胆しているようだった。
さらに驚いたことに、そこに三人目の自分が登場した。
そいつは忌み嫌う自分と神聖な自分に向かって、
あざけりながら説教を始めた。
「おまえらふたりの姿は一体何なのだ、
  みっともないぞ、いい加減に、
  目を覚まして元に戻ったらどうだ。」
そう言うと、冷ややかに笑った。

もう支離滅裂な場面だった。
ひとつの夢の中に、自分が都合三人もいたからだ。
起きて、いや正確には未だ眠ったままで思い出していた。
そうだ、確か、ありったけの睡眠薬を飲んだのだった。
忌み嫌った姿の正体は自分の死体で、
それを許せないでいる神聖なものの正体は孤立した魂。
その二つに向かって説教していたのが、
自分に手を下した自分、つまり本来の
自分だったというわけだろう。
いずれにせよ手遅れだ、俺の人生最後の夢にしては、
なかなか面白かったな…と思った瞬間、
今度は本当に夢から覚めて現実の世界にいた。

ひとりだった。
もしや…と振り向くと、うしろには
異様に澄んだ浅い川が音も無く流れている。
すでに渡ってしまった後らしかった、
膝から下が濡れている。
落ち着いて辺りを見渡してみた。
見渡す限り延々と白い石畳とグレーの空が広がっている。
完璧な静寂が支配していた。

長年うまく行っていると思っていた恋人に去られ、
職場の同僚から相手にされていない
 ことに、今さらながら気付き、
大学時代から仲が良かった親友の佐々木に
そんな恋人と同僚のことを愚痴っていたのだ。
そのうちに、佐々木は何が気に入らないのか、
真顔で怒りだして言った。
「石田、おまえって、最低のヤツだな、
  生きてる価値ないよ、ホント」
俺には、その言葉が決定的となった。
慰めてほしかったのに冷たいヤツだと思った。
そんなことが重なり、
それまでに経験したことが無い焦燥感を味わっているうちに、
やけ酒をあおり、ほんの出来心で
  睡眠薬に手を伸ばしてしまったのだ。
よく、考えれば、バカなことをしたのは明らかだった。
その程度の挫折なんて、人生の試練だと
  考えれば何とでもなったはずだ。
数えきれない数の錠剤が咽元を過ぎていくのを
 他人事のように愉しみ、
美しい花畑の出現を期待していた。

が、そんなに甘いものではなかった。
現実の世界の孤独なんて、かわいいものだった。
ここが彼岸の世界だとしたら、当たり前だが、
ひとが生きて行く場所ではなかった。
何にも無かった。
見渡す限り、どこまでも色の無い世界が広がっていた。
そこは、ただただ、寂寞としたところだった。
初めて体験する底なしの孤独が襲って来た。
その恐ろしいほどの孤独感から逃れるために
俺は、ひたすら、歩き続けた。
三日三晩、歩いても、歩いても、景色は全く変わらなかった。
悪いことに、この世界では、疲れることはないようだ。
それは、逃れることが出来ない
  無限の孤独が続いて行くことを意味していた。
七日めになると、さすがに耐えられなくなり、
 俺は大声を上げて泣いた。
もう泣くしかなかった。
しゃくり上げて泣いているうちに、
もの凄い吐き気に襲われた。
「イシダー、石田!」
胃の中の物を全部吐き出すと、
目の前に佐々木が現れた。
「石田、おまえってやつは、ほんと、
  どこまでも迷惑なヤツだ!」

自分の部屋に居た。
「おまえ、このクスリ全部飲んだろ。
 荒療治だけど仕方なかった。
 虫の息だったから、
 ネットで調べて、無理矢理、
 有り合わせのもので、胃の中を洗ったぞ」

佐々木が酔いつぶれて、
俺のベッドで寝てしまっていたことを思い出した。
生き返ったのだ。頭が割れるように痛かった。
「佐々木、ありがとう、すまん」佐々木に素直に感謝した。
佐々木は頷いて、何も言わなかった。
やはり親友というものは、
こんなときにチカラになってくれるのだ。
有り難いことだった。
もう、絶対バカなまねはしまいと思った。

それから、しばらくして、体調が戻ると、
佐々木と腹を割って語り合った。
佐々木だって、人の子、実は、たくさんの悩みを抱えていた。
彼はいつになく、赤裸々に自分の不幸な身の上を話してくれた。
みんな、他人では計れない、
大変な人生を送っているのだと改めて気付かされた。
俺と、佐々木は、前向きに、楽しく生きて行こうと、誓い合った。
話が興に乗り、明るい将来を夢見ていると、
楽しくて仕方がなかった。
そうしているうちに、佐々木は、タバコを切らしたから、
コンビニへ行って来る、と表へ出て行ってしまった。

ひとりになると、
先ほどの生々しい臨死体験が思い出された。
あっちの世界で起きたことを検証してみると、
妙なことに気付いた。
確か、俺は川を渡りきっていたはずだった。
聞かされた話しでは、川を渡る前に
誰かの呼ぶ声で振り向き、
助かるのだという。
でも、俺は川を渡りきっていた。そのことだけは確かだった。
濡れた靴下が気持ちが悪くて、脱いだのを克明に覚えている。
まとわりついて、なかなか脱げずに苦労したのだった。
よく考えてみると、佐々木も様子がおかしい。
確か、栃木でも有名な富豪の家に生まれているはずだ、
あいつの不幸な身の上なんて聞いたことが無い。
それに、佐々木は、俺の部屋で酔いつぶれてはいなかった。
怒った挙げ句に、ドアをもの凄い勢いで閉めて出て行ったはずだ。
あいつ「佐々木!」と叫んでドアを開け、
表へ飛び出すと、
石畳の石が裸足の足にひんやりと触った。
目の前には見覚えのある、色の無い風景が広がっていた。
慌てて振り向くと、
今開けた自分の部屋のドアが消えるところだった…

夢だった。

歩き続けて七日めに、やっと眠ったらしかった。
死後の世界でも、夢は見るのだ。
それも、生前の世界と同じように、
都合のいい夢を見るらしかった。
しかし、リアルな夢だった。
現実の世界に居るような感覚にひたれた夢だった。
味覚も、嗅覚も、すべての感覚が本物と同じだった。
どうやら生前に見る夢とはそこが違うようだ。

でも、良かった、これからは
この7日めに見る夢を、唯一の楽しみにして、
こっちの世界で、生きて行けることが分かったからだ。

俺は、また当て所も無く歩き始めた。
少しでも早く睡魔が訪れることを願って…。


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新作の「ホラーマーケット2」です。


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[超短編小説
企業の上手なデジタル活用法
「企業の上手なデジタル活用法」  田島照久

時は2020年
証券会社に勤める長谷部には
最近ファンになったアイドルがいる。
アイドルが所属する事務所の戦略なのか、メディアを選び、
CM出演だけでファンを増やし続けている。
その彼女が写真集を出したので早速買って来て、
同僚に自慢げに見せていると
そこを通りがかった同期の国崎が覗き込んで言う。
「ああ、その娘ね、ディードルね」
「え、何、国崎、そのディードルって」
「デジタルだよ、デジタルでつくったアイドルのことだよ、
  ちょっと貸してみ」
国崎は写真集を手にして仔細に見入る。
「しっかし、最近のは本当にわかんないよなあ…」
「何言ってんだよ国崎、デジタルなんかじゃないよ!」
「この子がデジタルだっていうのは
  有名な話だよ、某サイトじゃね」
「国崎さあ、どうして分かんだよ、デジタルだって。
 この髪の毛の生え際とか、よく見ろよ、
 それにこのニキビとかも…」
「長谷部くんね、じゃあ聞くけど、その娘さあ、
 出版記念サイン会とかやったか?」
「うーん…そう言や、アイドルにしちゃめずらしく、
 そんなイベント関係、一切やんなかったんだよな、
 やってくれたら、恥ずかしいけど、
 そこで買ったんだけどな……」
「だろ、実在してたらやるだろ、普通。
 聞いたんだけどさ、最近は、ディードル扱ってる事務所で
 資金力のあるとこなんかは、
 そのサイン会自体もデジタルでつくって
 芸能ニュースとして流すらしいよ。
 俺の友達が、口外しないことを条件に、
 そのエキストラをやらされててさ、
 全身、青い服尽くめの娘と笑顔で
 握手させられるんだって言ってた」
「国崎、俺、ちょっと、分かんなくなってきた……」
「でもさ、いいんだよ、眺めて楽しけりゃ。
 それに、その娘が実在してても
 長谷部が、面と向かって会う機会がなきゃ同じでしょうが」
「同じじゃないよ……」
「ちなみに、最近の有名どころのディードルといったら…」
「うわー、もう、いいよ、言わんでくれー」
「心当たりでもあんの?」
「俺、怖くなってきた!」
「長谷部くん、ひょっとして、知らないで、
 ディードルにファンレター出して、返事が来てたりして…」
「そ、それは無いけど。でも、あったら怖いわな」
「ま、それも、いいんじゃないの。
 子供がサンタさんから手紙もらうようなもんでしょ」
「国崎、それとこれは全然違うぞ!」
「でもなあ、聞くところによると、
 最近のオタク系はディードルじゃないと
 萌えなくなってる傾向にあるらしいよ。
 〈なんてったって、アイドル〉の理想型が
 そこにはあるわけだからな」
「オレも、既にそうなりかかってた分けだから、笑えないな」
「長谷部さあ、デジタルでも自然に愛してしまう、
 オレたちの世代って、この先どうなるんだろうね」
「国崎だって、気になってる、あの本社の早紀ちゃんが
 デジタルの産物だったらどうするよ」
「ありえるかもな、いつもモニター越しにしか
 会ったこと無いもんな」
「そう言えば国崎さあ、この前の大量リストラでは、
 本社の可愛い連中はひとりもリストラされてないって
 問題になってたけどな、それと、あいつら、
 ここ何年も歳取らないって」
「けっこう、オレたち島流しみたいな支社の営業が
 奮起するように仕組まれてたりしてな」
「そうそう、本当は、年季の入ったオバちゃんが
 対応してんだよ、きっと。
 モニーター上では、あの可愛い
 志村早紀子に成り代わってるわけ、
 早紀ちゃんみたいな娘に〈国崎くん、長谷部く~ん、
 きょうの営業、頑張って来てくださーい〉とか言われると
 オレたち、単純だから、はりきっちゃうもんなー」
「そういや、ここの連中、東京出張で、だれひとりとして
 本社の娘に会ったやつは居ないもんな」
「田中なんか、早紀ちゃんと同じ課の吉村可奈子ちゃんと、
 どうにかしてデートしようと、帰り際に
 本社のロビーで待ち伏せしたけど
 ついに、現れなかったって、言ってたな。
 それどころか、可愛い連中に限って
 誰一人としてロビーを通らなかったそうだよ」
「俺の本社出張でも、連中ときたら、
 可奈子ちゃんたちの課の話題になると
 いつも、話しを、はぐらかしちゃうんだよな…」
少しの時間、ふたりの会話が途切れた。
「ディードルかあ、こんな可愛い娘がねえ…」
長谷部はそう言うと、哀しそうに、写真集を
 引き出しの奥にしまった。
国崎は、もはや、そんな長谷部を笑えなくなっていた。
「長谷部、ところで……」
怖くなった国崎は話題を変えようとした、そのとき、
同じ課の後輩の鈴木が遠くから国崎を呼んだ。
「国崎さーん、本社の志村さんから電話でーす」
国崎に緊張が走った。


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[超短編小説
死ぬほど怖いアルバイト
「死ぬほど怖いアルバイト」  田島照久


何不自由なく育った能天気な女子大生の”J” が大学最後の夏休みに、のっぴきならない事件に巻き込まれ、瀕死の状態に追い込まれ、助けを求めていると、そこに”K”が現れた。

J「あなたは誰?」
K「私か、私は神だ」
J「かみさま?」
K「そうだ、神だ、
 もっとも、私が苦労してつくりあげた
 君たち人間、という生命体が勝手に、
 私を、そう定義づけたに過ぎないのだがね」
J「あなたが、私たちをつくったって?」
K「そうだ、気が遠くなるほど昔のことだ」
J「どうやって?」
K「説明してもいいが、わかってはもらえないよ」
J「ずいぶん威張ってんのね、いいから言ってみてよ、
 どんな方法で私たちをつくったというの、
 あなたがいうところの、
 その神様とやらに訊いているんだけど」
K「つくり方は遺伝子そのものをつくりだすことなのだよ、
 遺伝子の本来の目的は永遠に進化し続けることだが、
 その進化のプログラムの始まりの部分、
 そのきっかけとなる部分は、君に一年かけて説明しても、
 分かってはもらえないだろう」
J「なによ、つまり私たち人間は下等と言いたいわけ」
K「そうは言ってはいない、すでに、素晴らしく進化しているよ、
 しかし、人間はまだ、生命そのものの在り方については、
 知っているとは言えないだろう」
J「どういうこと?」
K「生と死は同じことだよ、どちらも進化のためにある」
J「すぐそうやって、観念論にもっていくのが、
 まさに神様ってわけね、もっとわかりやすく言ってみてよ」
K「人は死んでは生まれ変わり、
 また死んでは、別の人間に生まれ変わり、
 進化を繰り返し、無限に続いていくものなのだよ」
J「まだ分からないわ、何を言ってるのか」
K「君たちは死を迎えて生命の在り方のすべてを知るが、
 生を受けると、今度はすぐにそのことは忘れるように、
 遺伝子そのものをプログラムされているのだよ」
J「どうして、忘れるようにしてあるの」
K「そうしないと、進化しなくなるからだ」
J「もっと、説明して」
K「では、君の命が仮に2千歳くらいあるとしたらどうだね」
J「すごい長寿の人生ってこと?」
K「そうだ、よく考えてごらん」
J「実は今も、夏休みの提出レポートなんかで、
 やらなくてはいけない事が、山ほどあるけど、
 そんなに、急がなくてもいいような気がするわ、
 だいたいそうだとしたら、夏休みなんて
 20年くらいありそうだし」
K「そうだ、なんでも後回しにしてしまうんだ。
 明日やればいいやってね。人生は短いからこそ、
 追われて頑張るんだよ、それが進化なんだ」
J「神様って、やっぱりそんな言い方ね、説教じみてて。
 だいたい、偉そうに話してるけど、
 どこがそんなに偉いのよ」
K「では、ひとつ訊くが、君がいちばん怖いことってなんだ」
J「それはやっぱり、死ぬことが
 いちばん怖いでしょ、人間だもん」
K「じゃあ、きみに不老不死の命をあげるとしらどうかね」
J「永遠に死なないということ」
K「そうだ、何万年も、何百万年も、何億年もだ」
J「それは、怖いわ、考えただけでもぞっとする」
K「そのぞっとすることをやってるのが私だ」
J「そうか、そりゃ偉いわ、
 やっぱり神様だけあって、あんたは偉い!」
K「やっと、わかってくれたかね」
J「ええ、永遠の命なんて、私には死ぬほど怖いことだわ」
K「死ぬほど怖いか、表現としてはそれがぴったりだな」
J「ところで神様、あなたは、
 いったい何歳なの、どんな姿をしてるの」
K「私が、君たち人間が言うところの、その神様に
 なったのは、もう考えられないくらい昔のことで、
 いまが何歳かなんて分らないね
 宇宙の年齢140億歳よりは若いことだけは確かだけど。
 自分が何だったかもわからない、
 神様になる前にどんな姿をしていたかも忘れてしまったよ。
 今は意識だけが存在しているだけなんだ。
 そもそも神様とは公共のものなんだよ、
 この地球圏を担当してる神様の場合は、
 人間1万人に対してひとりくらいだから、大変なんだよ、
 のっぴきならない要望に限って訊いてあげてるけど、
 間に合わないことの方が遥かに多いんだ。
 だから、そろそろ行かなきゃ」
J「もういっちゃうの」
K「この地球上には、君みたいな娘がたくさん待ってるんだ。
 神様にでも頼まなきゃならんことが
 山ほどあるらしくてね、大忙しなんだよ。
 そうだ、君にいいものを上げるよ」
J「何?いいものって、いいものだったら、ちょうだい」
K「わたしのアシスタント職だ、
 神様のアルバイトをしてみないか、
 さっきも言った通り、最近は大忙しなんでね。
 特典だけは凄いぞ、それを全部上げるよ」
J「ひょっとして、死ねないの、その、神様のアルバイトって」
K「いや、アルバイトの場合は、ほんの5千年くらいだよ」
J「いやだ、いやだ、絶対いやだね」
K「いいじゃないか、少しやってみたらどうだ、
 もしやってみて、嫌だったら
 アルバイトを辞めれば人間に戻れるよ、
 本雇いになりたければ、その段階で
 〈永遠の命〉がもらえるんだよ」
J「だから、いやなの」
K「ちなみに、神様の時間で5千年なんてすぐだぞ、
 ほら、面白いことをしてると、
 時間って過ぎるのが早いじゃないか、
 神様になると毎日がスペクタクルの連続で、
 人間界なんて目じゃないほど面白いんだ、
 どうだ興味あるだろ、ほんとは」
J「そりゃ、やってみたく無いことはないけど…」
K「じゃあ、特別に2千年バージョンにしてあげるよ」
J「5百年くらいだったら、なんとか……」
K「……わかった、千年ちょうどでどうだ、
 これ以上は負けられん。神様の沽券に関わるからな」
J「じゃあ、やってみる!」
K「決まりだ、私も助かるよ」
J「いつから?」
K「今からだ」

J が静かに目を閉じると、少し時間が流れた。

J「神様、私もう、アルバイトに採用されたの」
K「すでにね」
J「感慨深いわ……何だか」
K「ああ、言い忘れた、
 因に、そのアルバイト職のことを
 人間界ではエンジェル、天使って呼んでるよ、
 それと、もうひとつ、その天使をやってて、
 辞めてったヤツはひとりもいないよ」
J「ん?……」


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新作の「ホラーマーケット2」です。
Posted by 田島照久 thesedays
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[超短編小説
短い話



「ホラーマーケット」の中で、いちばん短い話をひとつ。

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「寒村の信号機」   田島照久

住民が三十人足らずの寒村に住む、
若い陶芸家を取材しに車で出かけた。

取材は長引いてしまい、終わったのは午前一時を過ぎていた。
急いで陶芸家にお礼と別れを告げ、夜道を少し走らせていくと、
押しボタン式の信号機を誰かが押している。
先週この村で、珍しく交通事故があり、
誰かが亡くなったということを陶芸家から聞いていたので、
わたしは慎重に車を停めた。
暗がりを、女の人が軽くお辞儀をして通り過ぎていった。

それからしばらく車を走らせていてハッとした。
昼間走ったときには、あの村には
確か、信号機などひとつもなかったはずだ。

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今読むと、なにも、ここまで短くしなくても、と思いますね。当時は、これよりもっと短い話も書いたのですが、さすがに却下されました。こだわって短さに挑戦してました。究極は3行でも背景がしっかり描写されていて、怖い話なんですけど…。
少しは読んでいた頂いている方もいらっしゃるようなので、次回は新作を…。T2
Posted by 田島照久 thesedays
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